仙台地方裁判所 昭和27年(行)20号 判決 1953年4月08日
原告
田辺春治
被告
宮城県知事
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は訴外刈田地方事務所長が原告に対してなした昭和二十六年度事業税の賦課処分を取消すとの判決を求め、その請求の原因として、原告は肩書住所において農業のかたわら雑貨商を営んでいる者であるが、昭和二十五年中の原告の雑貨営業による所得金額は一万九千四百四十八円であつたので、昭和二十六年三月五日訴外刈田地方事務所長に対し同額の申告をしたところ、同所長は同年八月八日これを三万円と更正した上同年八月十六日附徴税令書をその頃原告に交付して原告に対し昭和二十六年度の事業税四千五十円の賦課処分をなした。右処分は原告方が辺鄙な地方でその上農業協同組合と多数の行商人に圧迫され不振の状態にあることを考慮しないで所得金額を誤認し納税の義務がない者に課税した違法の処分である。
原告は昭和二十六年八月十八日附免税請願書と題する書面を刈田地方事務所長に提出し以て、被告に対し異議の申立をなしたが、被告は今日に至るまで決定をしないので本訴を提起(昭和二十七年八月二十二日受附)してその取消を求めると述べ甲第一、二号証を提出し、乙各号証の成立を認めた。
被告指定代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告の主張事実中冒頭から賦課処分をなしたまでの事実(昭和二十五年中の原告の雑貨営業による所得金額が一万九千四百四十八円であつたとの点を除く。)、原告の肩書村に農業協同組合があること、原告からその主張のような免税請願書が刈田地方事務所長に提出されたことはいずれも認める。その他の点は争う。右免税請願書は異議の申立に該当しないから本訴は異議の手続を経ないで提起された違法がある。そうでないとしても原告には申告洩れの所得があり刈田地方事務所長は各種の調査をした結果昭和二十五年中の原告の雑貨営業による所得を三万円と認め、本件処分をしたもので右処分には違法はないと述べ立証として乙第一乃至十三号証を提出し、甲各号証の原本の存在及び成立を認めた。
理由
原告の主張事実中冒頭から訴外刈田地方事務所長が原告に対しその主張の賦課処分をなしたまでの事実(昭和二十五年中の原告の雑貨営業による所得金額が一万九千四百四十八円であつたとの点を除く。)、原告から昭和二十八年八月十八日附免税請願書と題する書面が刈田地方事務所長宛提出されたことはいづれも当事者間に争がない。
原告は右書面の提出が本件賦課処分に対する異議の申立にあたると主張するから、この点の判断をすると、原本の存在と成立に争のない甲第二号証によれば右書面には「請願の大要」として要するに原告方の窮状が記され、「最前の努力を傾注し所定の税額を納付すべきでありますが」「収支償はない現実より斯かる税額の担税力は忌憚の無いところ毫もありませんから委員会に於いて慈愛からなる慎重審理の上是非免税の御承認煩し上度茲に不本意乍ら免税の請願を致します」と記載されているのみであつて、本件賦課処分が違法である旨を直接間接に指摘した記載はない。ただ地方税法には「生活費を根柢より無視する」「矛盾欠陥がある」との記載はあるが、これとて前記の記載に照らしてその効力を争う文意であるとは解されない。従つて、右書面の提出を以て本件地方税の賦課処分に対する異議の申立と見ることはできないから、原告の本件訴の提起は異議手続を経ないでなした不適法なものと謂わなければならない。よつて他の点の判断をなさず本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条によつて主文の通り判決する次第である。
(裁判官 松尾巖 飯沢源助 山下顕次)